『知らないと恥をかく世界の大問題12 世界のリーダー、決断の行方』角川新書/990円
池上彰(いけがみ・あきら)
1950年生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授、東京工業大学特命教授、東京大学客員教授、愛知学院大学特任教授。慶應義塾大学卒業後、73年にNHK入局。94年から11年間、『週刊こどもニュース』のお父さん役として活躍。2005年に独立。角川新書『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズなど著書多数。
――「知らないと恥をかく」シリーズは今回で12冊目となります。やはりコロナ問題は外せない課題になっていますね。
池上 今回はコロナ禍がテーマとして必須でしたが、そのほかにも米中対立が大きなテーマです。トランプ前大統領によって世界は大きく揺れ動きました。バイデン大統領が欧州の民主主義国との外交関係の修復を進め、地球温暖化対策に力を入れていますが、肝心の米国内の亀裂の解消には至っていません。
――日本でもワクチン接種が進んできました。今後、コロナ問題はどのようになっていくと思いますか?
池上 ワクチン接種が進んでも、デルタ株やラムダ株などの変異が進んでいるため、2回の接種では不十分ということになってきています。来年に3回目の接種を実施することで、ようやくコロナ禍が収まることを期待しています。
米中対立の狭間で日本が果たすべき役割とは…
――一方で、米中関係の緊張がさらなる高まりを見せていますね。
池上 中国は、かつて90年代に最高指導者の鄧小平が「韜光養晦(とうこうようかい)」という方針を打ち出していました。これは、「才能を隠して、内に力を蓄える」という意味で、中国の外交・安保の方針でした。いわば爪を隠して国際社会での存在感を高め、経済力もつけるべきだ、というものでした。その後の中国の指導者は、これを忠実に守っていたのですが、習近平国家主席は方針を転換。爪をむき出しにしています。それだけの実力をつけたのだという自信の表れですが、その結果、アメリカとの関係が悪化し、欧州各国も警戒感を強めています。
半年後には北京で冬季オリンピックが開催されます。新疆ウイグル自治区でのウイグル人への抑圧や、香港の民主主義の圧殺などへの反発が高まっていることから、「平和の祭典を開催するにはふさわしくない」という反発が強まるでしょう。「オリンピック開催の是非」「オリンピック参加の是非」が、別の次元で議論されることになっていくでしょうね。
――米中の狭間で今後、日本はどう進むべきでしょうか?
池上 理念と経済の狭間で悩む、という構造ですね。アメリカは日本にとって民主主義の理念を共有する同盟国です。その一方で、日本経済にとって中国は死活的に重要な位置を占めています。理念を先行させて中国と対立すると、日本経済は大きな打撃を受けます。かといって中国に妥協的な姿勢を見せるとアメリカが反発する。〝米中対立に橋を架ける〟これが日本の果たすべき役割だと思います。
(聞き手/程原ケン)
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