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菅総理は何もしないのではないか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

新型コロナの感染急拡大が続いている。医療もひっ迫して、すでに医療崩壊の状態に突入しており、複数の感染症の専門家も、今や「災害級」との評価を下している。

感染急拡大の大きな要因は、デルタ株だ。米国疾病対策センター(CDC)は、デルタ株の感染力が水痘並みに強いとの見方を示している。従来型の新型インフルエンザの4倍以上だ。

そのことは、西村康稔経済再生担当大臣が示した事例でも明らかだ。感染対策をしたデパートの地下や学習塾、理容店などでクラスターが発生している。マスクをして対策を取っていても、人が集まれば感染が広がってしまうのだ。

緊急事態宣言がほとんど効果を持たなくなるなかで、強力なデルタ株と対峙するためには、ロックダウンが必要との意見が各所から上がり始めている。

ところが、菅義偉総理は動かない。会見でそのことに触れ、「世界でロックダウンをする、外出禁止に罰金かけても、なかなか守ることができなかったじゃないですか。やはりワクチンだということで、人流の抑制と同時に、そうしたことをしっかり全力で取り組んできています」と話した。ワクチン一本槍で行くと宣言したのだ。

もともと、菅総理は「ワクチン接種を完了した人の割合が4割になれば、感染拡大に歯止めがかかる」と話していた。しかし、デルタ株を前にして、その理論は破綻した。完了率59%のイギリスで感染急拡大が続いているし、日本も37%に達しているのに、感染拡大が止まらないからだ。

菅首相がもくろむ与党勝利のシナリオ

私は、菅総理が9月5日のパラリンピック閉幕直後に臨時国会を召集し、国民や中小企業にバラマキをする補正予算を成立させて衆議院を解散し、10月10日に総選挙というシナリオだろうと考えていた。しかし、ここまで総理が何もしないということは、このまま解散もしないのではないかと思い始めた。

菅総理の描くシナリオは、こうしたものではないか。まず、8月6日から13日までの1週間で、1日当たりのワクチン接種は122万回だった。このペースでワクチン接種が進み、そのうち半分が2回目の接種に回るとすると、ワクチン接種完了者の割合は、1日当たり0.48%上昇する。

衆議院議員が任期満了となるのは10月21日だから、そこまで待てば、ワクチン接種完了者の比率は、76.3%まで高まる。さらに、投開票日は最も遅い場合で、11月28日まで引き延ばせるので、接種完了率は94.5%となる。

現状、12歳未満は接種対象となっていないし、ワクチン接種を望まない人もいるから、そこまで高い接種率にならないかもしれない。しかし、6割程度で頭打ちになっている欧米と比べれば、かなり高い接種率が実現するだろう。医療崩壊のなかで、国民が命を守る手段がワクチン接種しかなくなるからだ。

新型コロナを収束させた段階で選挙をすれば、与党が勝利できる。もちろん、このシナリオの下では、医療が崩壊し、大量の重症者と死亡者が発生する。しかし、そんなことは関係ない。菅総理にとって必要なことは、財政負担を減らし、選挙に勝ち、総理の座を守ることだ。

次期衆議院選挙は、こうした政権運営を国民が是認するかどうかを決める重要な選挙になるだろう。

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