今年4月にデビュー30周年を迎えた田川寿美。コロナ禍で予定していたイベントの多くは中止に追い込まれたが、昨年9月にリリースした『楓』はオリコンの週間シングル演歌チャート1位を獲得。動画の再生回数も約30万回を記録している。13歳でスカウトされて15歳で上京、デビューは16歳だった。少女とは思えない大人の哀愁を感じさせる歌唱力は群を抜き、「天才歌手」「美空ひばりの再来」とまで絶賛された。しかし、そのレッテルが重圧で周囲に反発したこともあるという。45歳のいま、愛息との秘話、トキメク男の理想像など、歌姫の「胸の内」に迫った。
――30年を振り返ってみて一番変わったなと思うのは何ですか?
田川 自分を許せるようになったというか…すごく丸くなりました(笑)。若い時は周りから求められる自分でいなければならないなど、自分で自分を規制していた部分が強かったと思うんですね。自分勝手に1人で苦しんでいた時期が長かったと思います。でも、ここ数年は、自分らしかったらそれでいいかなと。車のハンドルじゃないけれど、ちょっと遊びを持ちながらいた方が人生豊かなのかなと思っています。
――その厳しさは仕事面だけですか?
田川 そうですね。たとえば歌のことでいうと、自分で点数をつけてしまうんです。今日は80点しか取れなかった、60点だったわと、歌い終わってから自分を責めることが多いです。
――なにがきっかけで丸くなったんでしょう?
田川 年齢もありますが、子供(男の子・9歳)の影響も大きいと思います。
――この子を守らなくてはいけない、教え導かなくては…ということですね。
田川 そのことが、自分自身の生き方にも反映してきたのかなと思います。先日、とても驚かされたことがあったんです。コロナ禍もあって普段よりもコミュニケーションが取れるようになったのですが、息子がふと「どうして(テストで)100点を取らなくてはいけないの?」と聞いてきたんです。そんなこと、考えたこともないですよね。100点を目指す意味。歌の世界でも当たり前のように100点を目指してきましたから。そこに疑問を持つんだぁっていう、新鮮な驚きがありました。
息子に色々と影響を受けちゃってます
――どう答えたんですか?
田川 うまく答えられたかどうかは分からないんですけど、「テストは自分自身の現在の能力を知るためにある。100点取れた子のことをすごいなと思うか、自分よりも点数の低い子に対して自分の分かる範囲で教えてあげようと思うか。常に自分の身の丈というか、基準を知っておくことになる…」みたいなことを噛み砕いて説明しました。
――ある意味、お母さんが30年近くかかった結論を、息子さんは肌で感じていたわけですね。
田川 そうそう(笑)。
田川は2011年に結婚。翌年に長男を出産した。その後、15年に離婚して現在に至る。
――最近、YouTube『田川寿美の○○はじめました!』(所属事務所の公式チャンネル「NAGARA TV」内)も始められました。これはどんなきっかけで、何を発信したかったんですか?
田川 昨年から今年にかけて、たかだか1年間で急に時代が進んだというか変化しました。そんな中で、自分は何ができるかと考えた時に、私には歌しかないなと。特に自分が子供だった頃、1980年代の音楽ってすごくかっこよくて、自由で制限がなくて生き生きしていたと思うんです。あの頃の音楽を弾き語りで、日本語の美しさも踏まえて伝えていきたいと考えて始めました。南こうせつさんの『夢一夜』とか井上陽水さんとか…。今聴いても斬新でかっこいいと思います。
――家にいる時も聴くのは歌謡曲が多い?
田川 そうですね。Jポップや洋楽も聴いています。最近ではあいみょんさんの曲が懐かしくっていいなぁと思います。メロディーラインに日本の夕焼けみたいなものを感じるんですよね。
――YouTubeを始めるに当たって、特有のテンションのようなものは勉強したんでしょうか?
田川 それはしてません。台本もあるわけじゃなく、自分のその時のテンションでいいかなと思ってやっています。ただ、他の方のYouTubeはよく見ますよ。これも息子の影響で、ヒカキンさんとかゲーム実況とか。『うっせぇわ』も、息子から教えてもらいました。息子がいなければ、まず知る由もなかったことなので、色々と影響を受けちゃってますね。
哀愁のある男性がすごく好き
――今はコロナ禍で難しいと思いますが、芸能界の交流は?
田川 大月みやこさん、同郷の坂本冬美さん、藤あや子さんらと仲良くさせていただいてます。お酒に連れて行っていただいたり、ご飯を食べたり。皆さんもう、お姉さんみたいな感じなんです。私の顔を見るなり「あんた大丈夫なのぉ?」って。私が小さい時からご存知なので、いつまで経っても子供というか妹みたいに心配されています。
――最新曲『楓』のことを伺います。テーマは失恋、別れの曲だと思いますが、ご自身はどんな解釈をしていますか?
田川 やはり、現代を生きる凛とした女性ですかね。ただ、待つ身の女ではなく、今の時代の女性像を意識して作っていただいてるので、とても共感しています。自立した女性、だけどやっぱり心が揺れちゃうんだよねぇというところでしょうか。
――気に入ってるフレーズはありますか?
田川 サビの部分です。「忘れないで 忘れないから」という。
――そういう感覚は久しくないですか?
田川 あはははは。すっかり忘れてしまいましたねぇ。
――トキメキは?
田川 トキメキたいとは思っています。ずーっと好きなのは長渕剛さん。あとはロバート・デ・ニーロさんとかアル・パチーノさん。ちょっと年を重ねた、哀愁のある男性がすごく好きで愛おしいと思っちゃう。ギラギラしてなくて、性別を超えた人間の深みみたいなものが、とても魅力的ですよね。その人といると時間がスローモーションになった…ぐらいな雰囲気の人が好きです。世界がモノクロになるくらいの豊かさっていうんですかね。
――会話がなくてもいい、くらいの?
田川 そうですね。あれ? なんだかおばあちゃんみたいですね(笑)。私、昔からそうなんです。年配というか年上が好き。
――もしも、そういう人が身近にいたら、アタックしちゃいますか?
田川 します、します。「お茶しましょう」って。
田川寿美◆たがわとしみ 11月22日和歌山県生まれ。1992年『女…ひとり旅』でデビュー。その年の第34回日本レコード大賞では新人賞を、第11回メガロポリス歌謡祭、第25回日本有線大賞で最優秀新人賞を獲得。94年『第45回紅白歌合戦』に初出場を果たす(計4回出場)。今秋発売に向けてデビュー30周年記念曲を制作中。