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『暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで』(中公新書/820円+税)~本好きのリビドー/昇天の1冊

『暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで』(中公新書/820円+税)
『暗殺の幕末維新史桜田門外の変から大久保利通暗殺まで』(中公新書/820円+税) (C)週刊実話Web

NHK大河ドラマ『晴天を衝け』の舞台となっている時代、幕末。ちょうどペリーが黒船に乗って日本にやって来る場面が描かれていたが、そのペリー来航から王政復古(江戸幕府を廃止し、天皇を推戴した新政府の樹立)まで、「暗殺」は100件(未遂を含む)を超え、さらに明治維新後にも起きている。『暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで』(中公新書/820円+税)は、そうしたテロの歴史を克明に紐解いた力作だ。著者は歴史研究家の一坂太郎氏。

まず、井伊直弼が刺殺された桜田門外の変を思い浮かべる方が多いだろう。また、新選組の内紛で殺害された芹沢鴨、維新後に襲撃されて大久保利通。これらはほんの一部だ。

激動の時代の深層が垣間見えてくる

薩摩藩に大谷仲之進という商人がいた。外国と密貿易していた人物だが、攘夷(外国人の排斥等を掲げる排外思想)を信条とする長州藩に暗殺された。薩摩の密貿易を暴き、無関係な人物を犯人に仕立てるという、血生臭い事件だった。

暗殺犯(便宜上ここでは犯人とする)の立場や考えを、丹念に分析している点が特徴だ。幕末・維新は意見の対立や、権力者への憎悪がことさら多かった。そこで、犯人は邪魔者を消し去るためにテロや内ゲバに走る。その裏にどのような動機・謀略があったかを追跡することで、激動の時代の深層が垣間見えてくる。

殺すことでしか解決策を見いだせなかった非情な時代は確かにあった。暗殺という黒歴史から追った読み応えある1冊。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)