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菅総理「恐怖の支配システム」~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

菅総理「恐怖の支配システム」~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
菅総理「恐怖の支配システム」~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

東北新社から7万4000円の接待を受け、国民の批判を浴びていた山田真貴子内閣広報官が、3月1日に辞職した。2月25日の衆院予算委員会に参考人出席したときには、辞職を否定していた。実は山田氏は、接待報道が出た時点で辞職を申し出ていたが、官邸がそれを認めなかったのだ。

私は、そこに菅義偉政権の問題点が集約されていると思う。もちろん表面的には、もし辞職した場合、同じく接待を受けて軽い処分を下された11人の総務省幹部たちと、バランスが取れないという問題があった。ただ、より本質的な問題は、菅総理による「恐怖の支配システム」なのだ。

菅総理は、異論を唱えた官僚を容赦なく更迭する。そして、自分の周りをイエスマンだけで固めている。彼らを重用すると同時に徹底的に守り抜く。そうすることで強い指導力が発揮できるからだ。このやり方は、安倍晋三政権のときに始まっているが、菅総理はそれを鮮明に打ち出している。

官邸主導が強まると、役人は、物事を考えなくなる。官邸に楯突けば、確実に更迭されるのだから、何もしないほうが得だ。黙って官邸に従っていれば、出世して給料も上がるのだ。

35年も前の話で恐縮だが、私が経済企画庁で働いていた当時、出世を目指す官僚は、ほとんどいなかった。私自身も手取りが13万円程度しかなかったのに、毎日深夜まで働き、休日出勤も日常茶飯事だった。公僕としての責任感といった崇高な理由からではない。とにかく仕事が面白かったからだ。

一度足を踏み入れたら出られない世界

トップとして政治家の大臣がやってくるとは言っても、彼らは素人だ。だから、官僚同士で政策をすり合わせ、落としどころを探っていく。自分が決めた政策で、現実に日本が動いていくのだから、こんなにやり甲斐があって楽しい仕事はない。霞が関は、日本を動かすシンクタンクの役割を果たしていたのだ。

官邸主導は、官僚から仕事のやり甲斐を奪っただけでなく、官僚の所管業界との交流も奪った。1998年のノーパンしゃぶしゃぶ事件で、世間から接待への批判が高まり、99年に国家公務員倫理法が制定された。以降、官僚たちは所管業界との交流が難しくなってしまった。私が経済企画庁にいた80年代は、通産省から電話を1本入れてもらえば、どの企業のどの工場でもすぐに視察ができた。そして夜は、接待だった。その場で民間企業の本音を聞けたのが、政策づくりに大きく役立っていたのだ。

それが、いまや接待を受けられるのは、幹部に限られるようになった。しかも、接待は情報交換ではなく、利権のやり取りの場になってしまっている。

今回の総務省接待を『週刊文春』にリークしたのは、総務省内部の人間だとみられている。「菅派」の幹部たちが辞職に追い込まれれば、自分たちに浮上のチャンスが生まれるからだ。しかし、その目論見は菅総理が「親衛隊」を守ったことで、失敗に終わる可能性がある。さらし者にされて足抜けを申し出た山田氏も、すぐには辞めさせてもらえなかった。一度足を踏み入れたら出られない世界なのだ。

つまり日本の官僚制度は、もはや独裁国家と同じ仕組みになってしまった。指揮官が完全無欠の能力を持つのなら、それでも国は回るだろうが、菅総理はそれだけの自信があるのだろうか。

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