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予算成立も問題山積!岸田首相がひそかに画策する“自爆テロ人事”とは

岸田文雄
(画像)Naresh777 / Shutterstock.com

「茂木は何をやっているんだ。いい加減にしろ!」

3月1日夕、官邸執務室に岸田首相の怒声が響いた。

この日は2024年度予算案の衆院通過をめぐり与野党が激しい綱引きを演じていた。

年度内の予算成立を確実にするには1日金曜日に衆院予算委員会で採決し、2日の土曜日までに本会議で可決する必要があった。

そのため自民党の浜田靖一国対委員長は、徹底抗戦する野党に対抗し、徹夜国会になっても予算案を衆院通過させる構えを見せていた。にもかかわらず、茂木敏充党幹事長は立憲民主党の岡田克也幹事長に電話し、衆院通過を4日に譲る方針を一方的に伝えたのだ。

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政府関係者が語る。

「この譲歩で予算成立が4月にずれ込めば、暫定予算案の編成を余儀なくされ、本予算成立を材料に政権が揺さぶられ続けることになるところでした。岸田首相は衆院政治倫理審査会に自ら出席し、裏金事件の真相解明に尽力したが、一つも汗をかかず勝手に野党に『4日』と伝えた茂木氏の動きを〝岸田降ろし〟と捉え、怒りを爆発させたのです」

結局、首相が「2日通過」を頑として譲らず、異例の土曜日の本会議開催を経て予算案は参院に送られ、無事28日に成立したが、この〝茂木の乱〟は結果として、首相の指導力の著しい低下を露呈させる結果になった。

政権の末期症状を示す要素はこれだけではない。

公明党の石井啓一幹事長が10日放送のBS番組で、衆院解散・総選挙の時期について「次の自民党総裁選で選ばれた方は支持率が非常に高くなるので、(解散は)今年秋の可能性が一番高い」と発言。自民党内では「事実上の岸田降ろしののろしを上げた」(自民党関係者)と評判になっている。

同時に報道各社の内閣支持率も、共同通信が20.1%で過去最低を更新するなど、軒並み低迷したまま。自民党支持層の数字も多くの調査で50%を割り込み、「政権はいつ倒れてもおかしくない状況」(同)に陥っているのだ。

だが、岸田派(宏池会)所属だったベテラン議員によると、首相はそれでも「照準を合わせる6月の衆院解散を諦めていない」という。

こうした影響もあって、自民党内では派閥解散と政倫審出席表明に次ぐ「第3、第4のサプライズが用意されているのでは?」とみる向きも少なくないのである。

「その奇策の一つと噂されているのが、安倍派幹部の厳正処分と人心一新を見込んだ人事刷新です。16日に党本部で開かれた全国幹事長会議では、地方組織から裏金事件への批判が続出。首相はこうした声を踏まえ、4月上旬と目される安倍派元幹部らの処分に、党員資格停止を検討しているという。この処分は除籍や離党勧告よりも軽いが、選挙での公認がなくなり、事実上の無所属候補として戦わなければならなくなる。要は、首相は自発的に離党を促そうとしているんです」(自民党ベテラン議員)

一方、人事刷新については処分と同じタイミングで、岸田首相と反目を強める茂木氏の更迭が検討されているという。

「首相に人事を進言しているのは浜田氏と、茂木派を退会した小渕優子選対委員長。2人は『衆院解散の前に思い切った人事をするべき』と伝えているのです」

先の自民党関係者はこう語るが、茂木氏の後任には国民人気が高い石破茂元幹事長や、実直な森山裕総務会長の名前が挙がっているという。

「同時に、部分的な内閣改造をする案も浮上しています」(同)

いつの間にか“岸田1強”に

政権末期であるにもかかわらず、ここまで強権を発動できるのは、首相の派閥解消表明により、安倍派や二階派をはじめとする主要派閥が軒並み解散に追い込まれ、異例の〝岸田1強〟状態にあるからだ。

前出の自民党ベテラン議員は「経済環境の大幅な好転も、首相の強権を促している」と指摘する。

東証株価が史上最高値を超えて4万円台を付けた上に、春闘では連合の中間集計で5.28%もの大幅賃上げが実現した。おかげで日銀は19日の金融政策決定会合でマイナス金利を解除し、悲願のデフレ脱却が目前とみられているからだ。

「岸田首相は以前から『やるべきことをやり抜く』と言ってきたが、経済の好転で支持率が少しでも上向けば衆院解散への視界が開けるとみている。派閥解消表明後は首相と距離ができた麻生太郎副総裁は、依然として早期解散に慎重なものの、浜田、小渕、森山氏らは早期解散を支持する主戦論者。そのため、麻生氏も政治資金制度の改革を訴えて国民に信を問えば、『党人派として反対しない』といわれているのです」(同)

だが、選挙に弱い中堅・若手議員らからは、解散に前のめりにも見える岸田首相への反発が広がっているという。

先導しているのは他でもない茂木氏で、2月以降、主に安倍派の衆院当選1〜2回の議員を対象とした夜会合を繰り返し、勢力拡大に余念がない。

「出席者によると、会合では『首相は何をするか分からない』『4月に解散されたら惨敗する』『岸田政権が続くとは思えない』などの声が上がり、一部には茂木氏を頼る動きも出てきています」(自民党議員)

さらに、1月下旬には無派閥の青山繁晴参院議員ら15人前後の保守系議員が、党内有志グループ「政治(まつりごと)変革会議」を結成し、裏金事件を受けた党政治刷新会議の会合では「首相はリーダーシップが欠如している」と批判した。

他方、非主流派の菅義偉前首相は3月1日に東京都内の日本料理店で、菅政権で主要閣僚を務めた萩生田光一、加藤勝信、武田良太各氏らと会食。「現状では解散できない」との見方で一致したとされる。

こうした党内の混乱が、今後〝岸田降ろし〟を加速させるか否かは、4月28日に行われる衆院補欠選挙の結果にかかっている。

衆院東京15区、島根1区、長崎3区で行われるトリプル補選は、それぞれ公選法違反で執行猶予が確定した柿沢未途前法務副大臣、死去した細田博之前衆院議長、裏金事件で略式起訴された谷川弥一前衆院議員の辞職に伴うものだが、官邸サイドは「保守王国の島根は勝てる。野党乱立となる東京もいける」(政府関係者)と2勝を目論んでいるという。

ところが、自民、立憲民主党いずれの調査でも島根1区は知名度に勝る立憲の亀井亜紀子元衆院議員が、自民党新人の元財務官僚を圧倒することが予想されているのだ。

「また、自民党は裏金事件のダメージが大きい長崎3区は候補者を立てず不戦敗で乗り切る方針。東京も都連が公募の方針を決めたものの作業が進んでいないなど、このままなら『3戦全敗もあり得る』との見方が現実味を帯びてきているのです」(党選対関係者)

ちなみに、首相周辺では東京15区で小池百合子都知事率いる地域政党『都民ファーストの会』との連携を模索する動きもあるが、「小池氏は勝ち馬にしか乗らない。首相がジリ貧のままなら連携はない」(同)というのが、永田町の大勢だ。

元宏池会のベテラン議員が重い口を開く。

「実は恐ろしいことに、宏池会の中でも中堅・若手を中心に『もう岸田首相はもたない』との認識が広がりつつある。起死回生の一手は、補選を吸収する形で断行する4月解散だが、裏金問題の処分は恐らく国民に評価されず、株価上昇と大幅賃上げだけではとても選挙で勝てるわけがない」

このベテラン議員によれば「首相は裏金問題の処分に関して世論が厳しく、党再生の見通しも立たないと判断した場合に、自身を『党役職停止』にする策も秘かに検討している」という。

仮にそうなれば党総裁を辞任、内閣も総辞職となることは必至。果たして、その状況下で岸田首相がどんな立ち回りをみせるかは不明だが、政局が重大局面を迎えることだけは確実だ。

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