『ゴールデンカムイ 絵から学ぶアイヌ文化』集英社新書/1500円
中川裕(なかがわ・ひろし)
1955年神奈川県生まれ。千葉大学名誉教授。東京大学大学院人文科学研究科言語学博士課程中退。漫画・アニメおよび実写版映画『ゴールデンカムイ』でアイヌ語の監修を務める。
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――映画『ゴールデンカムイ』の大ヒットで、アイヌに関心を持つ人が増えています。
中川 アイヌというと、「もう存在していない」とか、逆に「今でも山の中で熊を獲って暮らしている」と思っている人がまだ大勢います。アイヌの歴史・文化やアイヌの現状に関する情報は、これまでも多くの書籍やウェブ上で公開されていますが、そもそも関心や知識を持っている人が少ないのです。私が自著で行おうとしているのは、この作品で関心を持った人たちに、今度はアイヌの歴史と文化に関する正確な知識を伝えるということです。
――そもそも、中川先生がアイヌを研究しようと思ったきっかけは、何だったのですか?
中川 大学でアイヌ語の授業があったので取ったというのが始まりです。そして、当時の大学生にありがちなモラトリアムで、就職せず大学院への道を選び、そのまま研究の道に進んだというのが正直なところです。私自身このような次第ですので、きっかけや動機というもの自体はなんでもよいと思っています。むしろ重要なのは続けることであり、さらに言えばきっかけとしての触れる場・機会というのを増やしていくことだと思います。
アイヌ文化と歴史の公式ガイドブック
――『ゴールデンカムイ』の登場人物の名前は、中川先生が候補を挙げたそうですね?
中川 基本的に作者の野田先生からの要請で私が名前の候補を挙げ、そこから先生が選ぶという形で進めていきました。ただしアシリパは、先生の方から候補が出され、私がその中から「これが一番良いのではないか」と意見を述べる形で決まったものです。他のアイヌ人名はほぼ私が考えたものですが、アシリパの父親のウイルクの名前は、ロシア民俗学の専門家である私の家内が考えたものです。
――現在、アイヌやアイヌの文化は、どのような状況になっているのでしょうか?
中川 『ゴールデンカムイ』で描かれている世界は今から100年以上前の時代を舞台にしたものであり、アシリパたちの生活はさらにそれ以前の姿をモデルとしています。したがって、現在ではそのような形のアイヌ文化はすでに存在しません。しかしアイヌとしてのアイデンティティーを持っている人たちは、さまざまな形で活動を発信し続けています。私としては、アイヌ文化は「滅びつつある」とか「失われた」とかという言葉を冠すべきものではなく、日本文化と同じように形を変えながらも、現在進行形であるということを強調していきたいと思います。
(聞き手/程原ケン)
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