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山本由伸「自分自身が憧れてもらえる選手になれるよう頑張ります」~心に響くトップアスリートの肉声『日本スポーツ名言録』――第86回

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(画像)PeopleImages.com – Yuri A/Shutterstock

大谷翔平に続いて、米大リーグのロサンゼルス・ドジャースに入団が決まった山本由伸。ちなみに由伸の名は「元巨人の高橋由伸から取った」わけではなく、両親の名からそれぞれ漢字1文字ずつを取って命名されたものである。

2023年12月、ポスティングシステムを行使してオリックス・バファローズからロサンゼルス・ドジャースへ移籍した山本由伸。12年総額3億2500万ドル(約465億円)という超大型契約はMLB(メジャーリーグ)投手として史上最高額。山本が契約時点でまだ25歳と若いこともあり、長期にわたる主軸としての活躍を見込まれてのことだ。

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ちなみにニューヨーク・ヤンキースのエース右腕で、23年にサイ・ヤング賞を受賞したゲリット・コールの契約金額は、山本をわずかに下回る3億2400万ドル。期間が9年でオプションもあるため単年で割ればコールが上になるが、それでも山本が現状において、世界最高の投手の座に最も近いところにいる一人であることに違いはない。

同じくドジャース入りした大谷翔平の10年7億ドルというプロスポーツ史上最大の巨額契約には及ばないものの、MLBにおいては総じて投手よりも野手への評価が高い。その打者の分が〝二刀流〟で上乗せされていることを思えば、投手としての山本の評価が大谷に劣るということではない。

勝敗は伸び悩んだが…

山本について、日本球界を代表する選手として急に名前を聞くようになったと感じている人は多いだろう。高校時代に甲子園出場などの目立った結果はなく、16年ドラフトでオリックスに4位指名された時点で、これほどの成功を予想する者はいなかっただろう。

入団1年目の17年から一軍登板を果たしたが、成績自体は5試合の先発で1勝1敗、防御率5点台と決して目立つものではなかった。しかし、この年に対戦した日本ハム時代の大谷は、初打席で三振を喫した後に「今年やったなかで一番よかった」とチームメートに漏らしたという。

当時、オリックスのエースだった金子千尋も、同年オフに出演したテレビ番組の企画で「次世代の侍ジャパン」を選出する際、ほとんど無名だった山本の名を挙げて「球が速くて強い」などと高評価している。

力みを感じさせないスリークォーターから投げ込まれる最速159キロの直球と、150キロ近いカットボールやスプリット、落ちるときにスピードが増すようなカーブなど、すべてが決め球となり得る威力があり、それが打者の内角にも外角にもコントロールよく決まる。プロの投手の中では小柄な部類だが、投球練習で球場に響き渡るミットの音を聞けば、その威力のすさまじさを感じ取ることができる。

2年目は主にセットアッパーとして起用され、日本プロ野球で初となる10代での30ホールドを達成。3年目の19年には先発ローテーション入りを果たし、リーグ最高の防御率1.95を記録したが、勝敗については8勝6敗と伸び悩んだ。

同年5月16日の千葉ロッテ戦では、同点の6回裏に野手の3失策、それも平凡な外野フライの落球や内野ゴロのトンネルなどにより4失点を喫した。結果、負け投手になった山本は「野手も反省するところがあると思う」とコメント。若手にしては生意気なようにも聞こえるが、続けて「(6回の)あの場面で自分もできることはあったはず」とも話している。

タブー視されたフォームに脚光

周囲の状況を冷静に判断した上で、物おじすることなく自分の考えをそのまま口に出すことのできる素直さと頑固さは、山本のマウンド度胸のよさにもつながっている。

21年から23年シーズンは最多勝、最優秀防御率、最多奪三振、最高勝率の投手4冠を3年連続で獲得。沢村賞、MVPも3年連続で受賞して、まさしく日本一の投手となった。

ドジャース入団会見で山本は、WBC決勝の米国戦前に大谷がミーティングで話した「憧れるのをやめましょう」にかけて、「今日からは本当の意味で憧れるのをやめなければいけません。自分自身が憧れてもらえる選手になれるよう頑張ります」と決意を語った。

大谷もダルビッシュ有も、メジャー入り後は徹底した筋力トレーニングで体を大きくしたが、山本は「鍛えて出力が高まれば、投手は肩や肘により大きな負荷がかかって故障が増えていく」との理由で、これを意識的に避けてきた。

代わりに取り入れているのがブリッジや倒立、サイドステップなど体全体をバランスよく使うためのエクササイズで、山本の特徴である腕を伸ばしきった「アーム投げ」に関しては、やり投げからヒントを得ているという。一般的に、肩を痛めるとタブー視されているアーム投げだが、球の出どころが打者から見えづらいというメリットもあり、山本は独自に無理のない体の使い方を習得して、これを実現している。

器具を駆使した他力本願的なトレーニングに頼らず、独自の道を進む山本がMLBの頂点に立ったならば、そのときには「憧れられる存在」どころか、革命的投手として球史に名を残すことになるだろう。
《文・脇本深八》

山本由伸
PROFILE●1998年8月17日生まれ。岡山県出身。宮崎県の都城高から2016年ドラフト4位でオリックス入団。21年から23年にかけて日本初の3年連続パ・リーグ投手4冠を達成した。23年オフに米大リーグのドジャースに移籍。

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