『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』朝日新聞出版/1650円
黒栁 桂子(くろやなぎ・けいこ)
1969年、愛知県岡崎市生まれ。管理栄養士(法務技官・岡崎医療刑務所勤務)。椙山女学園大学家政学部(現生活科学部)卒業。2012年、刑務所の管理栄養士採用試験では30倍の狭き門を突破し、採用される。
――全国で20人ほどしかいない、「法務技官」の管理栄養士になろうとしたきっかけは何ですか?
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黒栁 実はたまたま求人があったからなんです。前職は任期付きの小学校の栄養士でしたが、正規の公務員栄養士を目指していました。3年間の実務経験があれば、一般教養が免除されるという受験条件でしたので、40過ぎてもチャンスがあるだろうと思ったからです。ところが、3年の実務に3日足りず受験を諦めました。そこで、すぐさま求人検索をしたところ、見つけたのが刑務所栄養士の求人でした。
――受刑者に調理指導をするそうですね。具体的にどのように教えるのでしょうか?
黒栁 私が彼らに指導するのは新メニューを実施する場合や、アレンジ、改善などが必要な場合です。例えば、受刑者が「もう少し味を濃くしたいのですが…」と相談してきた場合、「○○君は、どうしたらいいと思う?」と尋ねます。「しょうゆを少し増やしたらいいと思います」と言えば「じゃあ、それでやってみよう」と伝えて、担当刑務官に許可を得ます。彼らも自分の意見が認められると、どうしたらもっとおいしくできるか工夫するようになります。それって、仕事に対するモチベーションアップにつながりますよね。この経験は、刑務所を出てどんな仕事をする場合でも役立つはずです。そうなることを意識して、彼らと接しています。
甘味が唯一の癒やし
――刑務所で人気のメニューを教えてください。
黒栁 どこの刑務所でも甘味系のものが好まれますが、中でもどんぶりサイズのぜんざいが人気です。嗜好品を自由にとれない彼らにとっては、甘味が唯一の癒やしになるようで、刑務所あるあるですね。
――刑務所での印象に残っているエピソードはありますか?
黒栁 西沢君(仮名)と一緒に調理をしていたときのことです。私と彼と2人で材料が煮えるのを待つ時間がありました。ふと彼が、「先生、僕、警察に捕まってから今日まで一度もメシを残したことないんです」とつぶやきました。続けてこう言ったんです。「当たり前だと思ってたんですけど…、それって母ちゃんが好き嫌いなく育ててくれたからなんですね」と。なんていいこと言うんだ! 彼のお母さんに伝えてあげたいっ! って思いました。刑務所にいる人たちはいずれ社会に出ていきます。その社会復帰に向けて、きちんとした人材育成ができれば「再犯防止」に繋がるはずです。そう信じて、彼らと一緒に炊場に立っています。
(聞き手/程原ケン)
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