「あんた、しょぼくれたしょーもない釣りばっかして、そのうちクビんなりまっせー」という知人の苦言に触発され、ここはバチッと一発、何かしら大物を釣り上げるべく伊豆諸島は三宅島に来ております。朝の伊ヶ谷港にて石物(イシダイ、イシガキダイを指す)狙いのブッ込み釣りを始めたものの、足元に群れる色とりどりの小魚に心奪われ…。気が付けばオヤビッチャなどの、いわゆる〝エサ取り〟と呼ばれる小魚を相手に夢中になるという、いつもどおりの〝しょぼくれ〟っぷりを遺憾なく発揮した前回となりました。
【関連】『オヤビッチャ&シラコダイ』東京都三宅島/伊ヶ谷港産~日本全国☆釣り行脚 ほか
イカンイカン。つい、いつものクセが出てしまったと小物狙いをやめ、ブッ込み釣りに専念することにします。気持ちも新たに、エサのボイルアサリをハリに付け、仕掛けを適当に投げ込んで待つうちに、早くも竿先が上下に揺れてアタリ到来です。ひときわ大きく揺れたところで竿を煽るとハリ掛かり。さほど派手な抵抗を感じないまま巻き上げた仕掛けに付いていたのは、ハコフグの仲間のウミスズメでした。こ、これは酒の肴にはたまらないヤツですな。
長崎県の五島列島には、これらハコフグ類の腹をくり抜き、中に肝と味噌を入れて焼き上げる〝かっとっぽ〟という、激しく旨い郷土料理があります。ところが、かつては無毒といわれていたハコフグやウミスズメの肝に、猛毒のパリトキシンを含む個体もいることが分かり、実際に死亡事故も起きていることから、今となってはこれらの肝を食べることは大変なリスク。持ち帰って酒でも飲んでしまったら、ダメ人間のワタクシは肝も食べたくなってしまうでしょうから、そうならぬように惜しみつつもリリースです。
ついに本命も無念のリリース
その後も魅惑のウミスズメや、派手なベラ類などが飽きない程度にハリに掛かりますが、肝心の石物からの反応はありません。釣り続ければいずれ本命も…と仕掛けを打ち返すうちに、ガツガツッ! と、ひときわ荒々しいアタリが出ました。期待を胸に待っていると、ギュンッ! と絞り込まれる竿先。鋭い手応えに本命を意識しつつ上げてくると、水面に石垣模様の魚影が見えました。イシガキダイです。
そのまま抜き上げてキャッチ。やりました! と言いたいところですが、大きさは25センチほど。ワタクシからすれば十分に嬉しい獲物ながら、三宅島では〝40センチ以下の石物はリリース〟のルールがあるので、泣く泣くリリース。その後、本命からのアタリはなく、ベラなどのエサ取りのアタリばかりとなり、思い切って桟橋先端から付け根寄りに移動してみることにしました。
桟橋の付け根に来てみると、なんともよい雰囲気です。早速、仕掛けを投げ込んで待つことしばし。エサ取り連中のアタリはありません。「これなら本命からのアタリをじっくり待てるわい」と腰を据えて待つものの、一向に竿先は動かず。先ほどまで割と賑やかにアタリのある釣りをしていただけに、これはこれで寂しいものがあります。
大物不発もオジサンに満足
思ったよりも魚影は薄いのか? と不安になり始めた頃合いで、いきなり竿先が絞り込まれました。慌てて竿をつかんで巻き上げにかかると、程よい力強さの手応えで釣り上がったのは、派手な色合いのオジサン。いかにも南の離島らしい魚は嬉しいもので、ましてオジサンは旨い魚ですからキープです。
この調子で次は本命をと仕掛けを打ち返すうちに、気が付けばそろそろバスの時刻。村営バスは1日5便なので、乗り遅れてはならじと道具を片付けて港入口のバス停に急ぎ足で向かうこととします。
「オジサンって魚がいるの知ってる?」というCMで、少しだけ話題になったこのオジサン。沖縄や南日本の磯や堤防では、しばしば目にする魚です。派手な色合いとオジサンのようなひげ面というユーモラスな見た目ながら、これらヒメジ類はフランスでは高級魚とされております。また、同じ仲間のホウライヒメジなどはここ数年、国内の市場で見かけることも多くなりました。
さて、このヒメジ類は加熱するとさらに皮の色が出る物が多く、このオジサンも姿蒸しにするとなんとも鮮やかな深紅色になりました。身離れのよい白身はホクッと歯応えよく、旨味もしっかりと感じられて美味です。バチッと大物というわけにはいきませんでしたが、なんやかやと賑やかに釣れて楽しい伊ヶ谷港での釣りとなりました。今回も通常営業です、はい…。
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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