監督・脚本・編集/熊澤尚人
出演/上野樹里、林遣都、黃姵嘉、野村周平、川瀬陽太/嶋田久作/原日出子、バカリズム、酒向芳
配給/ハピネットファントム・スタジオ
予想外の映画でした。『隣人X』というタイトルから「ミステリアスな隣人に恋してしまう話かな」と、出産後も変わらない透明感を放つ上野樹里主演の恋愛モノを想定して見始めたところ、まさかのSFホラー。その伏線は、初っ端のニュースキャスターの報道映像から感じさせてくれる…そういう映画です。
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惑星Xで紛争が起き、助けを求めてきた難民をアメリカ政府は受け入れると発表。もちろん、日本政府も追随します。映画を見る我々は、人間の姿になりすまして日常生活に紛れ込んでいる「惑星難民X」に、最後の最後まで「本当は誰がXだったんだ?」と振り回され続けることになります。単純な話だと油断しているとマジでこんがらがるので、映画館の座席で「隣人」と答え合わせされることをお勧めします。
さて、「惑星難民X」は見た目では全く判別つかないために、国民には不安と動揺が広がるわけです。それはおそらく、現実に世界で溢れている「無意識の差別」、「見えない偏見」へのアンチテーゼなのでしょう。中東で起きている紛争だって、我々東洋人からしたら「ユダヤ人もアラブ人もそんなに大きなルーツの差があるわけじゃなし、同じ人間なのに何をやっているの」と思ってしまうわけです。
“地球人”ではなく“日本人”!?
しかし、日本にだって映画『福田村事件』でも描かれた「関東大震災直後に朝鮮人と名指しされて虐殺された行商人の事件」に象徴されるように、今なおヘイトや差別が厳然としてある。
不思議なのは、Xの疑いをかけられて「私は日本人だ!」と叫んでいること。そこは「地球人だ!」じゃないか。いや、むしろ誰にも迷惑をかけずそっと生きているXだらけになった方がよほど平和になるんじゃないのかと思わされます。
しかし、そういう深遠なテーマが横たわっていそうなのに、「特ダネ欲しさに、X疑惑の女性に近づく週刊誌記者役の林遣都」を軸にするとは、随分と娯楽方向に振り切ってしまったなという思いは否めないんですけどね。
ところで「惑星X」ってどこかで聞いたことがあると思ったら、昭和40年公開の『怪獣大戦争』をはじめ、東宝のゴジラシリーズに登場する「X星」のオマージュではないかと気づきました。ということは、河崎実監督の『日本以外全部沈没』『いかレスラー』路線の、嶋田久作やバカリズムが大真面目に演じる壮大なギャグ映画だったのかも。
「完売」を目指す頃の週刊誌の編集部が舞台ということで、実話の編集の方々の感想も聞いてみたいところです。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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