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停戦を呼びかけない決議“棄権”という判断~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

国連総会は10月27日、緊急特別会合を開き、アラブ諸国などが提案したパレスチナ自治区ガザでの戦闘に関して、人道的な休戦などを求める決議案の採決を行い、賛成121、反対14、棄権44で、決議案は採択された。国連総会の決議に法的拘束力はないが、国際社会は圧倒的に停戦を支持したのだ。


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ところが、日本はこの決議を棄権した。子供や女性を含む多くの一般市民が犠牲になり、このまま放置すれば万単位の命が失われようとしているのに、日本は停戦を呼びかけなかったのだ。表向きの理由は、ハマスへの非難が決議案に盛り込まれていなかったからだが、本音はイスラエルの肩を持つアメリカへの忖度だろう。

日本はロシアによるウクライナ侵攻を一貫して非難してきた。私は、それは正しいと思う。しかし、ロシアがやっていることと、イスラエルがやっていることは、基本的に同じだと私は考えている。

まず、武力による国境線の変更だ。ロシアは武力によってウクライナ東部4州を、住民投票を装いながら、事実上武力併合した。イスラエルもガザ地区北部への地上侵攻によって軍を駐留させ、実効支配しようとしている。

第二は、そうした国境線の変更をこれまでも行ってきたということだ。14年にクリミア半島が突如独立を宣言し、自ら望む形でロシアに併合された。しかし、それはロシアがウクライナにロシア人を送り込んで、親ロシア派を形成していたからだ。ウクライナ東部4州でも同じようなことをしている。

イスラエルも同様だ。1948年にイスラエルが建国されたとき、イスラエルとパレスチナ自治区の面積は、ほぼ一緒だった。ところがイスラエルは、入植活動を通じてじわじわと領土を広げ、いまではパレスチナ自治区の3倍以上の面積になっている。

石油の9割を中東に頼っている

第三は、圧倒的な軍事力を持つにもかかわらず戦争のルールを守らないことだ。少なくとも一般市民を巻き込み、無差別殺戮を繰り返すのは、最低限のルールも守っていないということだ。

私は中東に行ったことはないのだが、シンクタンク勤務時代に中東の人たちの親日感情をずっと感じ続けてきた。日本は一度も中東に侵略を仕掛けたことがなく、日本文化への憧れもあって、彼らはずっと日本人を仲間だと考えてきた。欧米が日本人を「黄色人種」として見下してきたのと大きな違いだ。

日本は、国連安全保障理事会で10月16日、ロシアが提出したイスラエルとハマスに即時停戦を求める決議に反対した。そして今回の国連総会の決議の棄権だ。中東地域の人たちが日本に対するイメージを変えてしまうのは、明らかだろう。数少ない世界での友人を失ってしまうのだ。

日本は石油の9割を中東に依存している。こんなことをしていたら、いざというときに助けてもらえなくなるだろう。それ以前に、国家の基本姿勢として、ダブルスタンダードは許されない。アメリカがイスラエルの肩を持つのは、米国の金融業やメディア業で、ユダヤ系の資本が圧倒的な力を持ち、政府に潤沢な資金を供給しているからだ。

しかし、今回の停戦は人道の観点から求められているのであり、「カネを持っているから何をしても構わない」という理屈は、誰がどう考えても、通らない。いまこそ日本は毅然たる態度で停戦を求めるべきだ。

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