監督/岸善幸
脚本/港岳彦
原作/朝井リョウ
出演/稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希、山本浩司
配給/ビターズ・エンド
イヤイヤイヤ…よりにもよってこの時期に、元ジャニーズの稲垣吾郎主演の本作が公開されるとは驚きましたね。
もちろん、ベストセラーとなった朝井リョウの原作が発刊されたのは2021年、本作撮影がその後であるとしても、公開時期が怖いほどに時代にマッチしています。おそらく配給側は慄然としているでしょうが、このタイミングだからこそ「あってはいけない欲はあるのか?」「いてはいけない人間はいるのか?」という問いに、一人一人が向き合う好機となるに違いありません。
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吾郎ちゃん演じる検事、新垣結衣と磯村勇斗演じる中学の同窓生カップル、そして佐藤寛太と神戸八重子の現役大学生の男女。同時期に別々の環境で暮らす5人の人生がオムニバス形式で描かれながら、少しずつ関係が交差していき、「正欲」というものの姿が明らかになっていく。そんなミステリー作品的な味わいがあります。
そして何より、ガッキー(新垣結衣)が見たこともないほど暗い表情を見せています。
むろん、彼女の恍惚の表情も見所ですが、大型ショッピングモールで販売員の先輩と絡むときの怖い表情や、納豆をムサムサと食らう様子とか、見違えます。星野源とキャッキャやっていたときのような「永遠の清純派」から、「ガッキーも人間なんだ」としみじみできる演技派へ、〝一歩踏み出す彼女を目撃しやがれ!〟と言いたくなります。
嗜好が“異常”というのは…
しかし、この映画を見て、どうしても想起してしまうことがあります。それは、東山紀之とイノッチによる第一回目の会見より以前にあった「特別調査委員会」の会見。弁護士などの第三者で構成されたチームの発言の中に「ジャニー喜多川氏の性嗜好異常」という言葉があり、彼らは「異常」という言葉を使ったんですよ。
もちろん、自分にはジャニー喜多川の犯罪行為を擁護する気持ちは一片もないし犯罪行為に至るのは問題外ですが、ただ嗜好そのものを「異常」と断じていいんだろうかと引っかかった。
何かと多様性が問われる今、自分はその違和感を図らずも先日、一コマ漫画にしました。まだ掲載前ですが、故ジャニー喜多川が「自分の犯罪は申し訳ないが、性嗜好異常という言葉は聞き捨てならん」と吠えている図です。
自分もまた性癖とは言えずとも、興味の対象が虫だの、ゴミ同然のガラクタだの、ことごとく人と違うわけです。本作は、誰もが自分の「正欲」とは何かを考えてしまう傑作だと思いますね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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