小田雅久仁(おだ・まさくに)
1974年宮城県生まれ。関西大学法学部政治学科卒業。2009年『増大派に告ぐ』(新潮社)で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、作家デビュー。2021年に『残月記』(双葉社)を刊行し、2022年本屋大賞ノミネート、第43回吉川英治文学新人賞と第43回日本SF大賞のダブル受賞を果たす。
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――口、耳、目、肉といった人間の〝からだ〟をモチーフにした恐怖の7篇が収録されています。〝からだ〟にこだわった理由はなんですか?
小田 収録作の中で最も古い『耳もぐり』が、たまたま体の一部をモチーフにした怪奇小説だったからです。この作品を皮切りに、目、鼻、口…などと書き継いでゆけば、〝からだ〟をモチーフにした怪奇小説集が1冊でき上がるだろうと考えました。実際、人間の〝からだ〟というものは、部分に注目すればするほど不気味に見えてきて、怪奇小説と相性がよく、また、生の象徴であると同時に、死の象徴でもあります。誰しもが皮膚の下に髑髏を隠し持ちながら生きているわけですから。
――日常とはかなりかけ離れた世界観が独特です。どこからこの発想は生まれてくるのでしょうか?
小田 例えば肌をモチーフにした『裸婦と裸夫』などは、登場人物が裸になるという点を除けば、繰り広げられる光景はゾンビパニック映画そのものです。鼻をモチーフにした『農場』もまた、ゾンビものの一つのバリエーションと言えるでしょう。また、目がモチーフの『喪色記』は、〝異世界〟と〝世界の滅亡〟という典型的なファンタジーのアイディアに基づいて書かれています。誰もが知っている既存のアイディアと、僕が実際に生きているようなありふれた日常生活を掛け合わせることで、一風変わった作品が生まれてくるのかもしれません。
人生の終着点は“死”
――小田さんにとって〝恐怖〟とはなんでしょうか?
小田 突き詰めてゆくと、やはり〝死〟にたどり着くと思います。死は万人にとって恐怖の源泉であり、老若男女、富貴卑賤を問わず、すべての人に宿命づけられた人生の終着点です。と同時に、物語の源泉でもあると思います。ホラーはもちろん、ミステリにおいても、殺人事件など、死という核を抜き去ることは困難ですし、逆に戦争、暴力、病気などをまったく登場させずに物語をつくることは、物語から〝生〟の輝きを奪うことになるでしょう。
――世界中で〝中毒者〟が続出しています。次回作の構想はありますか?
小田 発表した短編、中編をまとめたいと思っています。それらは、幻想性を重視したものになる予定です。幻想小説が目指すのは、日常生活では決して出くわさないような異質な光景、異質な物事、異質な経験を描くことだと思います。そしてそこから導き出される異質な感情。それらは人類をここまで発展させた人間の〝夢想する力〟を、端的に示すものだと信じております。
(聞き手/程原ケン)
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