前回、桂三枝(現・桂文枝)さんが、俺らが東京に進出後、初の舞台を見て「これは行ける」と太鼓判を押してくれたと書きましたね。三枝さんは後輩思いで、『佐賀のがばいばあちゃん』を出版したときにもお世話になったんです。
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『佐賀の~』を徳間書店から出した当時、B&Bは、なんばグランド花月で毎月1週間出番があった。新喜劇が終わり、お客さんが帰る際に、サイン入りの『佐賀の~』を手売りしていたんです。入り口付近にある売店の前に机を並べてね。
平日は2回公演、日曜は3回公演だったから、俺らの漫才を見たお客さんが買ってくれたんです。最高で700冊売れた日もありましたよ。次々、お客さんが買っていく様子を見ていた三枝さんは「俺も1冊買うわ」と自腹で買ってくれました。
翌日、三枝さんから楽屋に呼ばれましてね。楽屋に入ると「俺も今まで本は何冊か出したけど、そんなには売れなかったわ。この本が、もしヒットしたらお前は一生食えるで」。続けて「芸人自ら一生懸命売っている姿がすごいわ」「ありがとうございます」「がんばりや」。一生食べられるとは思いませんでしたけど、勇気づけられましたよ。
それからさらに3~4日が経った頃、その日も手売りを終え楽屋に戻ると、またも三枝さんに楽屋へ呼ばれたんです。そうしたらビックリしましたね。三枝さんは、自らの出番が終わると、帽子にマスク姿で後輩の俺のために本を買ったお客さんが話しているのを聞いていたそうなんですよ。要は市場調査のようなことをしてくれていたんです。
先輩方の先見の明
「『まだ20~30冊残ってるやんか。俺はあと5冊買って友達に配るわ』と話してる人がいたわ。お前、5冊買った人にサインしたやろ」「しました」「その人は『みんなに読んでもらったほうがエエから』と言っとったで」。他にも、東京に進出し漫才ブームを巻き起こして吉本に戻ってきたけど、舞台の出番後にサインを書きながら一生懸命売る姿を褒めてくれる人もいたらしいんです。先輩が変装してまで、お客さんの反応を探ってくれたのは嬉しかったですね。
その後、フジテレビ系列で『佐賀のがばいばあちゃん』がドラマ化された際には、宣伝のために三枝さんがビデオ出演してくれたんです。三枝さんをはじめ、西川きよしさんや笑福亭仁鶴さんなど売れた先輩は、なにか独特の勘を持っているんでしょうね。言われた通りになるんですから。
もちろん、お三方ともネタ自体が面白いのは大前提にありますけどね。特に、三枝さんは舞台が中心の落語家が多かった時代に「これからはテレビの時代や」と言って、『ヤングおー!おー!』や『新婚さんいらっしゃい!』の司会を務めていましたからね。先見の明があったんでしょうね。
それ以外にも、よく言われたのが若いときこそ舞台袖でいろんな先輩の芸を見ておけ。同じ劇場に出ている芸人なら舞台袖からタダで、しかも息遣いまで聞こえるほどの近さで見ることができる。漫才も落語も新喜劇も、それぞれの良さがあり、それを間近で見ることができた。吉本に所属していて良かったことですよ。
先輩に言われたことは、一度は試してみるのが大事ですね。
島田洋七
1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。
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