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日本経済は大破局へと向かう~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

7月28日、日銀がついに大規模金融緩和の修正に動いた。用意周到な発表だった。事前に審議委員たちが金融緩和継続をメディアににおわす。市場に織り込まれてしまったら、効果が見えなくなってしまうからだ。そして、もう一つは小出しだ。長期金利の上限を0.5%から「0.5%程度」をめどに緩和し、1%までの上昇を容認することにしたのだ。


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金融引き締めの短期的な影響は、株安と円高だ。実際、発表当日の日経平均株価は一時前日比854円下落した。しかし、その後急速に値を戻して、終値はわずか132円の下落、そして週明けの2日間で717円も上げた。一方の為替レートは、円高どころか大幅な円安に向かった。

正直言うと、私は株価が暴落するとみていた。10年続いた大規模金融緩和を転換したのだ。潮目が変わったのだから、金融緩和がもたらした株価バブルが崩壊すると投資家が判断すると思ったのだ。しかし、株価上昇神話は、揺るがなかった。少しの値下がりで、「今が買い時」とする投資家が株を買いまくったのだ。

この結果を日銀はどう捉えるだろうか。おそらく、「金融を引き締めても大丈夫だ」、そして「円安を防止するためには、もっとやらないとだめだ」ということになるだろう。

そうなる理由は他にもある。7月に短期金利を引き上げたアメリカは、9月もさらに引き上げる可能性がある。そうなったら、日米金利差が拡大する。物価高の要因となる円安がさらに進むのだ。すでに日本の消費者物価上昇率はアメリカを上回っているから、円安を防ぐためにも、日銀は短期金利に手を付けざるを得なくなるだろう。

破産や企業倒産が続出…

短期金利の引き上げとなれば、経済への影響は甚大だ。長期金利の引き上げは、固定金利の住宅ローン金利を引き上げるが、それは新規の借り入れ者に適用される金利だけで、すでに借りている人への影響はない。

しかし、短期金利が上がると変動金利の住宅ローン金利が上がる。それは、既借り入れ者の金利も上がるということだ。現在、およそ7割の人が変動金利の住宅ローンを利用しているから、その影響は大きいのだ。そして、運転資金を借りている企業の負担も一気に大きくなる。つまり、短期金利の引き上げは、住宅ローン破産や企業倒産が続出することにつながるのだ。

当然、景気は後退するので、政府は日銀に利上げを止めさせるか、景気対策を打たざるを得なくなるが、岸田総理は金融正常化の信念を持っているから、止めることはないだろう。さらに財政健全化も信念だから、景気対策を打たないか、打ってもその分を増税で手当てする暴挙に出るだろう。

さらに怖いのは株価だ。いま投資家の典型的な行動は、細かいことを考えずにトレンドに乗るということだ。景気が失速したら、そのトレンドが逆向きになる可能性が高い。そうなったら、売りが売りを呼ぶ展開になって、株価下落に歯止めがかからなくなるのだ。

ニッセイ基礎研究所の推計では、今年度の設備投資額は前年度比4.5%増の101兆円と、バブル期以来32年ぶりの100兆円超えとなりそうだ。アベノミクスがようやく実を結びそうなところに、キシダノミクスは冷水を浴びせかけようとしている。しかし、それを止める人はどこにもいない。日本経済は、この数年で大破局に向かうのではないだろうか。

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