楽しかった渓流釣り
42年2組 三橋雅彦
ぼくは、暑いのとゴキブリが大の苦手です。だから涼しくてゴキブリのいない北海道に来ています。今日は上川郡東川町のピウケナイ川で渓流釣りをします。大雪山系を流れるピウケナイ川はニジマスやオショロコマの実績が高いので、とても楽しみです。
ところで、最近の北海道はヒグマがとても増えているので怖いです。大雪山系も例外ではありません。そこで、夏休み前に先生に相談したら「単独ではなく、お友達と行きなさい」と言われました。でも、ぼくはあまり友達がいないことを話すと、「それなら先生がいつも使っているコレを貸してあげよう。みんなには内緒だよ」とビニールの人形を貸してくれました。
「浮き輪と同じように、川に着いたらコレを膨らませなさい」と空気入れのポンプも貸してくれました。さすが先生は頼りになります。
前の日は楽しみであまり眠れなかったぼくは、早くに出発をしました。だからピウケナイ川の畔にある大雪旭岳源水公園に到着しても、早朝なので誰もいません。とりあえず車から降り、先生から借りたビニール人形と釣具を持ってうっそうとした林道へと入ります。朝の静かな林道はすごく気持ちのよいものですが、ヒグマとのバッタリ遭遇が怖いです。そこで、ぼくは大きな声で「ともひろ〜! ゆきえ〜!」と、お友達の名前を叫びながら歩きました。これでヒグマも「お友達と来てるのかな?」と思ってくれるでしょう。
ひとしきり林道を歩き、適当な所から結構な斜度のゴロ石を下って水辺へ出ると、川幅こそ広くはありませんが意外と水の押しは強そうです。ピウケナイとはアイヌ語で〝石多く水襲う川〟という意味だそうですから、まさにその通りだなぁとぼくは納得してしまいました。
いきなりヒット良型に竿立たず
ぼくは早く釣りをしたかったのですが、安全のためにまずはビニール人形を膨らませます。膨らませたらすぐ横に置いて、お友達のように語りかけながら釣りをします。これでなんとなく安心です。
改めて川を見ると〝間違いない〟と思われる落ち込みと、それに続く青く深い淵があります。いつものように安物竿に簡単なミャク釣り仕掛け、エサのミミズをハリに付けて、まずは淵へ静かに仕掛けを沈めます。と、すぐにグンッ! というアタリで竿先が絞り込まれました。すぐにやりとりに入りますが、結構な力強さで竿が立ちません。竿が立たないのは最近のぼくと同じだな、と思いました。
今回は人形がかさばったこともあって玉網は持って来ていません。こんなことなら玉網を持ってくればよかったと思っても後の祭りです。ぼくの人生は後の祭りが多いです。上流側の落ち込みを潰したくなかったので魚を下流へと泳がせ、そのまま浅瀬へと誘導した勢いのまま「えいやっ!」と抜き上げて無事取り込んだのは、35センチくらいのニジマスでした。深紅の頬に深い色合いの厳つい風貌は、いかにも北海道のニジマスらしくて、ぼくは嬉しくなってしまいました。
本命2種に満足欲張らずに納竿
ニジマスをバケツに入れたら、今度は淵の上手にある落ち込みに仕掛けを入れてみます。すぐにグリグリッとアタリがあってハリ掛かりです。さっきのニジマスほどではありませんが、流れを背負った渓魚の引きは、なかなかのもので無理せずいなして寄せます。流れの中に茶褐色の魚影が見え、そのまま抜き上げたのは、20センチ超のオショロコマです。美しいニジマスに続いてオショロコマまでもが釣れて、ぼくは嬉しさのあまりビニール人形と一緒に記念撮影をしてしまいました。
この2尾でぼくはもう十分満足だったのですが、せっかくなので、もう少し上流に見えているトロ場も気になったので試しにやってみると、25センチくらいのニジマスが釣れました。これは先生へのお土産にしようとバケツに入れて、熊も怖いので欲張らずに釣りを終わることにしました。
お家に帰ってニジマスはバター焼き、オショロコマは煮付けにして昼間っから一杯やります。大雪山の伏流水で仕込まれた『男山』をチビリとやれば、清冽なピウケナイ川が目に浮かびます。今回は1人だけどお友達と一緒に釣りをしてるみたいで、そのおかげで熊とも出会わずに、美しいニジマスやオショロコマが釣れてとても楽しかったです。
三橋雅彦(みつはしまさひこ)
子供のころから釣り好きで〝釣り一筋〟の青春時代を過ごす。当然のごとく魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。
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