6月7日に政府は、経済財政諮問会議を開いて、今後の経済財政運営の指針となる「骨太の方針」の原案を公表した。そのなかで、同じ会社に長年勤めるほど優遇される退職金課税制度を見直す方針を明らかにした。勤続年数による格差を是正し、労働移動を促すことが目的だという。
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しかし、その中身はまた庶民イジメだ。制度改正の具体的な中身が分かっていないが、岸田総理がやろうとしていることは、退職所得控除の圧縮だとみられる。
退職金には、税制上3つの優遇措置がある。①分離課税、②退職所得控除、③2分の1軽課だ。退職金に対する税金を計算する際には、まず他の所得とは分離して、退職金だけで税額を計算する。その計算の際には、退職金から退職所得控除を差し引き、さらに控除後の金額を2分の1にして課税所得とするのだ。
退職所得控除は、勤続20年までが1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円となっている。勤続40年の場合、退職所得控除は2200万円となる。
人事院の「令和3年度民間企業退職給付調査」によると、定年退職の平均退職金額は、1429万円だから、退職所得控除の額よりも少ない。つまり、大部分のサラリーマンは、退職金をもらっても、税金を支払わずに済んでいる。長年の働きに対する「お目こぼし」だ。ところが、今回政府は退職所得控除を圧縮することで、普通のサラリーマンの退職金から税金を持っていこうとしているのだ。
年収400万程度でも負担率が30%に
しかし、今回見直しの対象に含まれていない重大な減税措置が2分の1軽課だ。普通のサラリーマンは、退職所得控除を差し引いた段階で課税所得がゼロになるから、2分の1軽課は何の意味も持たない。それでは、この制度は誰のためにあるのか。それは、外資系金融機関のインベストメントバンカー、企業経営者、そして天下り官僚のためだ。
例えば、外資系金融機関のインベストメントバンカーの報酬が2億円だったとする。彼らは就職の際に1億円を年俸として受け取り、残りの1億円を退職金として受け取るという契約をする。
10年後に退職する際には10億円の退職金を受け取る。退職所得控除は400万円だから、それを差し引いた後の9億9600万円の2分の1、つまり4億9800万円が課税所得となる。仮にそこに50%の税金がかかったとしても、課税額は2億4900万円となる。収入に対する税率は25%にすぎないのだ。
いま年収400万円程度の普通のサラリーマンでも、税・社会保険料の負担率は30%を超える。ところが、10億円もの退職所得を得たインベストメントバンカーは、それより低い負担率で済んでいるのだ。
同じようなことは、短期間で莫大な退職金を手にする企業経営者や天下り官僚についても言える。特に天下り官僚は、数年ごとに新しい天下り先に移る「渡り」という行動を繰り返し、その度に莫大な退職金を手にする。勤続年数が短いから、彼らにとって退職所得控除はほとんど意味を持たない。圧倒的に重要なのは2分の1軽課なのだ。
岸田総理は財政再建を優先する姿勢を貫いている。もしそうなら、なぜ合法的な脱税の温床となっている2分の1軽課の見直しに踏み切らないのか。結局、岸田政権は、金持ち優遇、庶民イジメのことしか考えていないということだろう。
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