監督/クロード・ジディ・Jr.
出演/ミシェル・ラロック、MB14、ロベルト・アラーニャ
配給/ギャガ
いかにも「若い」監督が作った作品だなぁ、というのが第一印象。「ラップとオペラの融合」での一点突破だと思いますが、「社会的に下層に見られている者が、何かの弾みで上流の目に止まって、眠っていた力が覚醒していく」というのは、映画『マイ・フェア・レディ』、古くは『パリのアメリカ人』などで表現されてきた常とうの流れです。
そういう作品を見てきた自分ら世代にとっては「そんな古典的な着想で映画を撮っちゃうの?」という理由で、星一つにしました。
主人公のアントワーヌは、ラップが趣味のフリーター。ストリートファイターの無学な兄をサポートするために会計を学んでいるものの、今ひとつ身が入らない。そんなある日、バイト先のスシ屋のデリバリー先が、オペラ座・ガルニエ宮だった。
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ベルサイユ宮殿と並び、外観だけは誰もが見たことあるフランス王朝文化の象徴です。もちろん、アントワーヌも中に入るのは初めて。豪華絢爛なグランドホワイエでレッスンを受けていたエリート生から小バカにされ、仕返しに歌ったオペラの歌マネがプロも驚く超美声だったことから、教師にスカウトされて運命が変わっていくというストーリーです。
思わぬ行動で人生の扉は開かれる!?
ストリートに生息する若者たちのののしり合いにも似たラップバトルと、高尚なオペラレッスン。決して交わらなさそうな世界同士が繰り返し対比されます。その中心には、ルイ王朝から続くパリ・オペラ座がデーンと。なかなか撮影許可が下りず、数年もかけて交渉に成功したという監督は「観客の注意を逸らさないよう、劇場がどれだけ美しいかを見せすぎないようにした」と配慮したようですが、それでも目を奪われます。
普通では見られない屋根上からの眺めや、入口を入ってすぐの大階段、シャガールの壁画が描かれた劇場の天井などが克明に映されていて、「おお、こうなってんのか!」と、確かに見応えありました。
興味深かったのはスシやカニカマが、ファストフードとして上流・下流を問わずパリ市民に定着していること。日本の寿司とは味も形も別物かもしれませんが。
さて、思わず歌った一節が人生の扉を開ける可能性がある、で思い出したのは、先日参加した酒席でのこと。自分はめったに歌わないんですが、ここぞというときの持ち歌がアイ・ジョージの『硝子のジョニー』です。歌った後、同席していたボイストレーナーの女性から「声が出ている」と褒められました。
自分は昭和歌謡の音楽プロデューサーとしても仕事をさせてもらってますが「歌うのもありか?」と、ほのかな期待を抱いてしまった夜でした。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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