――前編では、デビュー後に母親の介護のため、一時歌手活動を休止したからこそ、歌に対する意識などが変わったことを話してもらいました。自粛のあったコロナ禍ではどのような活動をしていたんですか?
【関連】『令和の“応演歌”』西川ひとみ~母親の介護経験が歌手生活のターニングポイントに(前編) ほか
西川 この3年間、仕事がほとんどなく経済的にも苦しかったですね。加えて、私自身も体調を崩してしまったんです。家賃が支払えないくらいの状態にさえなりました。そこでスーパーのレジのバイトの面接を受けに行ったんです。
面接官の店長さんは、私が出演してBS12他で放送されている『西川ひとみと三里ゆうじの歌日和』を見ていてくれた方だったんですね。そうしたら「今は大変かもしれないけど、ここで働く姿は見たくない」と採用されなかった。でも、CDを買っていただきました。そんな苦しいときに食べ物を届けてくれたり、助けてくれた方々が何十人といらっしゃいます。本当に感謝してもしきれません。
また、自宅の近所に川が流れているので、土手で発声練習を繰り返していましたね。
――今はお客さんの前で歌えますね。
西川 もう、戻ってきましたね。そこで感じるのは、コロナ前まではやはり贅沢だったんだなということです。仕事が忙しいときは、「疲れた」「仕事をしたくない」なんて思うこともあったんです。でもコロナ禍を経験して、歌手って歌うことしかできないんだなと痛感しています。私は他のことができないんです。歌に懸けるしかない。今は、お客さんの前で歌える幸せを噛み締めながら歌っています。
演じるのに苦戦した『女郎花』
――5月24日に新曲『女郎花』(おみなえし)をリリースしました。
西川 三重県は伊勢志摩に浮かび、遊郭街として栄えた歴史を持つ、ハート型の渡鹿野島を舞台にした曲になります。「女郎花」の花言葉通り、儚い恋の曲です。遊郭街で働く女性が好きになってはいけない人を好きになってしまい、またいつ会えるのかも分からない中で健気に生きていく心情を歌った曲です。
私は儚い恋をしたことがないんです。性格的に耐えられないんですよ。ですから主人公を演じるのにかなり苦戦しました。『女郎花』は岡千秋先生のアルバムに収録されていて、以前から同曲が好きで100回は聴いていたんです。いざレコーディングに挑むと、岡先生のような歌い方になってしまって。「もっと女性らしく歌ってほしい」とのことで、急きょ、レッスンしていただきました。岡先生にも「お前の代表作になるように頑張れよ」と励まされ、夢が叶いました。
――今後の目標は?
西川 これまで頑張ろうという言葉が自然と口から出ていたのですが、もう頑張りません。肩の力を抜いて、笑顔で皆さんに歌を届けられるように歌います。今が一番幸せですから。
昨年、母も亡くなりました。母も岡先生の大ファンで一度会うことができたんです。自宅を出るときには、母と岡先生の写真を前に「行ってきます!」と仏具のりんを鳴らすんです。それを岡先生に話したら「俺はまだ死んでないよ」と笑われてしまいました。
あと、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の大ファンなんです。大谷選手のプレーを間近で観戦したいので、ロサンゼルスに行くのも夢ですね。
にしかわ・ひとみ
熊本県八代市出身。浪曲師・松平円十郎のひとり娘として生まれる。1994年『別府航路』でデビュー。『西川ひとみと三里ゆうじの歌日和』(テレビ埼玉他)にレギュラー出演中。5月24日に新曲『女郎花』を発売。
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