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「支持率」急回復で岸田首相に迫られる最終判断…衆院解散はいつ?

岸田文雄
岸田文雄 (C)週刊実話Web

先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)が閉幕し、政界の関心事はいよいよ岸田文雄首相が衆院解散に踏み切るかどうかの一点に絞られてきた。来年秋の自民党総裁選に向けて、どのタイミングで解散するのがベストか、首相が決断を下す時期が近づいている!

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「2021年10月に就任して以来、衆院選、参院選、先日の衆参5補選、3つの国政選挙を勝ち抜くことができました」

5月17日、東京・芝公園の東京プリンスホテルで開催された自民党岸田派のパーティーで、岸田文雄首相は声を張り上げた。

首相が続いて述べた「重要課題を前に、歴史的な決断を行っていく」という言い回しから、出席者の多くが通常国会の会期末である 6月21日までに、衆院解散があり得ると感じたのは間違いない。

発言への伏線はあった。5月の大型連休が明けた10日、東京・平河町の都市センターホテルで開かれた自民党森山派のパーティーで、来賓として訪れた首相に森山派幹部が「選挙はいつでもいけます」と伝えたところ、首相は「分かった」と答えたというのだ。

森山裕・選挙対策委員長は首相の信任が厚く、「1票の格差」是正に伴う衆院小選挙区の10増10減で、全国の候補者調整を一手に引き受けてきた。その森山氏は4月18日、首相から調整の加速を指示されたという。ここから一気にスピードを上げ、全289小選挙区のうち、残りは公明党が候補者擁立を譲らない東京などの一部と、4月23日投開票の衆参5補欠選挙があった和歌山と山口など、20ほどを残すのみとなった。

森山氏は「首相に早期解散を進言する主戦論者の筆頭格」(自民党関係者)だ。自身のパーティーでのあいさつでも、臨席した首相に伝わるように「新選挙区から、どの政治家を選ぶかは国民の非常な関心事だ」と訴え、新しい区割りでの選挙実施が解散の大義になるとの考えを強調した。

早期解散で増税詳細はあいまいに…

自民党内でにわかに「解散風」が強まるのは、低迷が続いた岸田内閣の支持率が急回復しているからに他ならない。新型コロナウイルス感染は収束したとして、晴れて平時に移行。東証の日経平均株価は3万円台に乗せて、バブル後の最高値を更新した。

G7広島サミットでは、バイデン米大統領ら各国首脳に「被爆の実相に触れてもらう」(首相)べく、そろって平和記念公園で献花。ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領の電撃来日も実現させ、「まれに見るほどの大成功」(政府関係者)を収めた。

この先、報道各社の世論調査で内閣支持率が50%を超えてくるのは確実で、「勢いがあるうちに解散に打って出るのは選挙の王道」(前出・自民党関係者)との主張は理にかなう。

早期解散のメリットは他にもある。一つは、今春の統一地方選で躍進した日本維新の会が、選挙に向けて態勢を整えることができないうちに、衆院選に臨めるということだ。

すでに維新の馬場伸幸代表は、「基本的に全選挙区に候補者を立てる」と明言。大型連休明けから、選対委員長を兼ねる藤田文武幹事長を中心に、全国から数百人規模で集まる志願者の選定作業に着手した。

しかし、現時点では現職を含め70選挙区ほどしか擁立できておらず、「6月に解散があれば、上積みはどんなに頑張っても80くらいで、合計で150ほど」(維新幹部)なのが現状だ。

さらに、国民負担の争点隠しができるのも大きなメリットだ。岸田政権では今夏以降、大幅増を決めた防衛費や「次元の異なる少子化対策」について財源確保の議論が本格化する。

所得税増税にしろ、保険料徴収の上乗せにしろ、新たな国民負担を求めるのはほぼ既定路線だが、早期解散なら詳細をあいまいにしたまま選挙戦に臨むことができる。

党内でささやかれるのは、安倍晋三元首相の命日である7月8日の翌9日を投開票日とする日程だ。大安の同23日も有力視される。

こうした状況を見越して茂木敏充幹事長ら自民党執行部は、4月以降に入管難民法改正案など重要法案を次々と審議入りさせた。

さらに5月中旬には茂木派、安倍派、麻生派も順次パーティーを開き、連休前に開催した二階派を含め、自民党内の全派閥が「軍資金」の調達を終えた。

麻生派のパーティーではあいさつに立った森山氏が、「解散は絶対にあります」と準備を急ぐよう促した。

維新躍進で自公がこじれる

だが、衆院解散・総選挙に踏み切って、自民党はどれだけ勝てるのか。小野寺五典元防衛相ら岸田派内で早期解散を見込む一部の幹部は、「議席を増やすことはないが大きくは減らさない」との見方で一致する。

実際はどうなのだろうか。先の衆参5補選は4勝したとはいえ、衆院千葉5区は野党乱立に助けられての薄氷の勝利で、盤石と思われた山口2、4区も予想以上に野党に追い上げられた。参院大分選挙区は大接戦となり、衆院大分1区と重なる大分市では負けていた。

先の自民党関係者によると、党選挙対策本部で補選と統一地方選のデータを基に、衆院選で自民党の勝敗がどうなるのか分析した。その結果「最悪のケースで30議席減の可能性がある」との結論になったという。

この分析は、維新が統一地方選で多くの票を出した東京などの首都圏、北海道と福岡、各道府県の1区を中心に候補を積み増す一方、それ以外の選挙区では立憲民主党が候補を立てるという前提で行った。

野党間で棲み分けが進み、かつ立憲と共産党との間で候補が事実上一本化されれば、「自民党は苦戦しかねない」(選対関係者)のだ。

21年の衆院選では結果的に自民党候補が勝ったものの、野党候補に90%以上の惜敗率を許した小選挙区が目に付き、都市部を中心に30以上もあった。こうした選挙区を中心に厳しい戦いになるとみられる。

自民党は現在、衆院465議席のうち262議席を確保しているが、30減らせば過半数割れとなる。そうなれば岸田首相が退陣に追い込まれる可能性も否定できない。

自公関係の悪化も、首相の解散戦略に微妙な影を落とす。10増10減を受けて公明党は東京29、埼玉14、愛知16、広島3の4選挙区で候補を擁立すると発表。さらに、将来の代表候補と目される高木陽介政調会長を念頭に、東京28区にも立てる方針を打ち出した。

公明党がここまで積極姿勢に打って出るのは、維新の躍進があるからだ。統一地方選で初めて大阪府議会、同市議会ともに過半数を獲得。公明党との連携が不要になった維新は、配慮して候補を立ててこなかった大阪の4選挙区と兵庫の2選挙区、計6選挙区にも進出する構えを見せている。

公明党としてはダメージ回避のために、新たな5選挙区での擁立が必要になってきたわけだ。公明党関係者によると、一連の動きには支持母体である創価学会の佐藤浩副会長が暗躍しており、関係各所に「絶対に譲るな」とハッパを掛けているという。

当然、自民党側は態度を硬化。中でも東京都連会長でもある萩生田光一政調会長が激怒し、党として5月23日に、28区については拒否する考えを公明党側に伝えた。

すると公明党も負けじと、東京の全選挙区で自民党候補を推薦しない方針を決めて、いよいよ泥仕合の様相を呈している。

先の自民党関係者は「ここまで公明党が強硬なのは、実は維新と水面下で握りたいからだ。『大阪と兵庫で合わせて3つ譲るので勘弁してほしい』と持ちかけているようだが、維新がつれない」と明かす。

「公明党は、本音では維新と話が付くまでは解散してほしくない。だから自民党だけでなく維新との話がこじれると、解散は見通せなくなってくる」(同)

公明党は、定年延長の特例対象者である大阪3区の佐藤茂樹・外交安全保障調査会長と、大阪16区の北側一雄・中央幹事会会長の引退も視野に、維新との駆け引きを続ける構えだが、先行きは不透明だ。

人事が先なら「茂木財務相」

ただ、岸田首相の周辺では早期解散論だけでなく、来年秋の自民党総裁選前後の解散を含めた複数の選択肢が検討されている。

先の政府関係者が話す。

「要は総裁選で勝つことができれば、何も早期解散する必要はない。だから首相は、確実に総裁選で勝てる態勢づくりも模索している。つまるところ内閣改造と自民党役員人事だ」

人事を断行する場合、総裁選出馬への意欲を隠さない茂木氏の処遇と、誰を後任の幹事長にするのかが最大の焦点になる。茂木氏は何かと政策面で独断専行した揚げ句、「岸田政権は自分を含めた三頭政治だ」と吹聴しているだけに、首相が代えたがっているのは永田町で周知の事実。

自民党内で取り沙汰されるのは、茂木氏を財務相などの重要閣僚で処遇し、幹事長に萩生田氏を充てる案だ。茂木氏を閣内に取り込めば総裁選に出にくくなる上に、萩生田氏を起用すれば、100人を超す最大派閥の安倍派を名実ともに主流派で遇する格好になる。

岸田、麻生、茂木の主流3派から、安倍派を含む4派体制にして政権基盤を強化すれば、「よほどのことがない限り総裁選で再選できる」(前出・自民党関係者)との計算が成り立つ。安倍派の後見役である森喜朗元首相への配慮を欠かさなければ、同派の総意として再選を支持してもらえるとの判断もある。

岸田派幹部の一人は「森山氏をあまり信じないほうがいい。衆院選に負けて首相退陣となれば、得をするのは森山氏だ」と警戒の目を向ける。

「森山氏は、気脈を通じる立憲の安住淳・国対委員長に、解散の大義になる内閣不信任決議案を提出させようと水を向けている」(自民党幹部)

森山氏は非主流派の菅義偉前首相や二階俊博元幹事長に近く、連携して首相退陣後の政局を主導しようという思惑が見え隠れするとの意見もある。

しかし、菅氏は5月14日の民放番組で早期解散に触れ、「そんな状況ではない」と否定した。2人の言動にそごがあるように見えるが、これについても先の自民党幹部は「菅氏に言われれば首相もカチンとくる。解散させるための陽動作戦かもしれない」と、あくまでも勘繰る。

仮に首相が今国会会期末までの解散を見送れば、当初から念頭に置いてきた総裁選前後の解散が、まさに選択肢になってくる。

この場合、首相はウクライナでの戦闘激化を見越し、サミットの成果を最大限に生かすべく「世界の岸田」として外交に全力を挙げるだろう。

もちろんこの先、国民負担の議論が本格化すれば、支持率が急落するリスクはある。維新が選挙の態勢を整え、岸田政権に挑んでくるのは間違いなく、首相が解散のタイミングを失う可能性はゼロではない。

サミットを終えて帰京した首相は5月22日、官邸で森山、萩生田両氏と断続的に会談。自民党本部では麻生太郎副総裁、茂木氏の3人で会談し、今後の政権運営について協議した。衆院解散も当然のことながら話題になったに違いない。

果たして首相は、どのような判断を下すのだろうか。

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