監督/髙橋正弥
出演/生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山﨑七海、柚穂、宮藤官九郎、池田成志、尾野真千子ほか
配給/KADOKAWA
いいテーマだな、と思いながら見た本作。30年前の芥川賞候補作が原作だそうですが、今なおどころか、さらに深まっている格差や貧困、ネグレクト、孤独などの現代社会の闇を、抑制を効かせて表現しています。
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給水制限が発令された水不足の夏に、水道料金を滞納する家庭を一軒一軒訪問する水道局職員の生田斗真。「水はタダじゃないのか!」とののしられながら、規則通り、淡々と水道を止めて回っています。
かなり職業倫理意識の強い主人公が、本作の最後に〝しょぼいテロ〟行動をとるんですが、「ここまでやるかな?」とギャップを感じてしまい、1点減じました。
しかしそこに至るまでの、『渇水』というタイトルに象徴される抑制の効いた表現は見事です。誰もが体験している夏のうだるような暑さ、肌を覆う汗の不快さ。人々の心の乾き、失望感とがうまくシンクロして、見ている者の心をジリジリと灼き尽くしていきます。
水道の検針員に限らず、コンビニの店員、駅員、カスタマーサービスの人などさまざまな職務の人が、勘違いした客の逆ギレに遭って、やり場のない怒りをグッと抑えている。逆に大人の都合で取り残された幼い姉妹。柴田理恵扮する近所のおばさんから児童福祉に頼ることを提案されるも、「かわいそうに」と尊厳を傷つけられて反発。こうした弱者の心情にも、感情移入してしまうわけです。
忘れられない子供達の切実な叫び
さて、日本人にとって限りなくタダのように思える水ですが、水道水が安心して飲めるのは世界でも10カ国程度。その他の国では水は買うのが当たり前となっているんです。
もう20年近く前になりますが、アフリカのエチオピアに旅行に行ったとき、車に乗り込もうとする我々に、子供達が群がってきて口々に「ハイランド!」と叫んでいる。アビシニア高原に位置しているので、てっきり「高原(ハイランド)にようこそ」の意味かと思って手を振り返したりしていたんですが、実は車に積んでいた『ハイランド』という銘柄のペットボトルの水を分けてくれと訴えていたんです。あの声は忘れられません。水産業が普及した結果、途上国の政府は水道網を整えることを放棄している。命に直結した水が金次第なのは、今も変わっていないはずです。
ところで、本作の冒頭に節水で水を抜かれたプールで遊ぶ幼い姉妹が描かれますが、10年ほど前の『としまえん』のプール開きの広告。プールサイドとは最も縁遠い、海パン姿の自分を撮影するふざけた企画でした。肌寒い時期の撮影だったので、そういえば水が抜かれてたなぁ…などと、思い出したりもしました。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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