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『性産業“裏”偉人伝』第6回/アダルトグッズ・バイヤー~ノンフィクションライター・八木澤高明

Mr. James Kelley
(画像)Mr. James Kelley/Shutterstock

第6回/アダルトグッズ・バイヤー(肉山さん・40代・北関東在住)

物価の高騰、上がらない給与、世の中景気の悪い話ばかりで気が滅入ってくる今日この頃。そんな社会の停滞感を吹き飛ばすように躍進を続ける企業がある。

書店業界といえば、コロナ禍の巣ごもり需要によって、「リアル書店」の状況は芳しくない。ここ20年で、全国の書店数は半減し約1万店になり、売り上げも比例するように半減し1兆2000億円ほどに落ち込んでいるという。

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一方、「ネット書店」はどうなのか。書店にとって、氷河期とも言える時代に、コロナの恩恵を受け、店舗数を増やしている企業があるのだ。それが北関東を中心に28店舗を展開する『利根書店』である。

私は、躍進の秘密を探るため、群馬県高崎市にある利根書店の高崎店に向かった。広々とした片側2車線の道路に面して、目的の店舗はあった。

黒塗りの壁には、赤や黄色の文字で、男女のグッズ群馬一の品揃えなどと派手に宣伝文句が書かれている。利根書店は、アダルトグッズやアダルトDVDなど、艶系に特化した書店である。

店の前で、利根書店、アダルトグッズ・バイヤーの肉山さん(仮名)が出迎えてくれていた。

店内に入ると、いきなり入り口のショーケースに、ダッチワイフが鎮座していた。

「精巧なダッチワイフですね」

私が驚きの声を上げると、すかさず肉山さんの訂正が入った。

「あまりダッチワイフという表現は使わないですね。今は『リアルラブドール』と言います」

ラブドールに手袋をはめてから触らせてもらった。果たして、どんな感触がするのか興味があった。

人体とは違い、冷んやりとはしている。しかし、乳房や乳首の感じは、本物と遜色がないような気がした。

ラブドールからはじまり、店内には雑誌からDVD、さらには大人のおもちゃならぬアダルトグッズが所狭しと並んでいて、目のやり場に困ってしまうほどだ。ここまで艶系に特化していると、なんとも清々しい気もしてきた。

艶やかな店内からバックヤードに回り、肉山さんに話を聞いた。どれだけのアダルトグッズやDVDなどが店にはあるのだろうか。

「アダルトグッズに関しては、1万点は超えています。DVDは、6万本以上はありますね」

店の壁には「群馬一の品揃え」と書いてあったが、日本一と言っても差し支えないのではないだろうか。

店の売り上げの中枢を占めているのはDVD販売で、アダルトグッズは、その2分の1ほどだという。ただ、アダルトグッズに関しては、ここ数年の売り上げは右肩上がりで、まだまだ成長を見込めるそうだ。

その言葉には、一見の私でも十分納得できた。

店の作りは、現在、男性向けに作られていて、男性客の割合が9割を占めているという。だが今後、女性向けのアダルトグッズが世に広まれば、必然的に女性客も取り込める要素があるようにも思えたのだ。

女性のセルフプレジャーに勝機あり

女性用のアダルトグッズについて、肉山さんが言う。

「日本のメーカーのアダルトグッズは生々しい形状のものが多いのですが、ヨーロッパのメーカーのそれはおしゃれで、バイブやローターに見えないようなものが多いです。向こうでは、自慰行為そのものを『セルフプレジャー』と呼んでいて、健康や美容の一環と捉えているんです」

改めて、アダルトグッズの置かれているコーナーに足を運んでみた。確かにヨーロッパのものは、家電コーナーに置いてあってもおかしくないデザインをしていた。

「アメリカなどではセレブの間で流行し、日本では人気女性タレントが使っていたことで有名なった『ウーマナイザー』というアダルトグッズがあります。それは『吸引系』という新しいジャンルの商品で、今までにない気持ち良さがあるようで、かなり人気の商品になっています」

アダルトグッズは少しずつ女性に認知されていて、現在、一部の百貨店にも置かれるようになったという。

男性向けの市場は、何か目新しいものがあるのだろうか。

「最近、目をつけている市場は、『男の終活』です。死の前にAVやDVDを家族に見られないよう、処分しようという提案です」

これまで、遺族から「故人の艶系DVDなどを引き取って欲しい」という問い合わせなどがかなりの数あって、時にはトラックをチャーターする必要があるほど大量のDVDを引き取ったこともあったという。こっそりと本やDVDを所有している男性が多く、家族に恥ずかしい思いをさせないための「終活」をすすめているというのだ。

男性の尊厳も守られて、店も潤う。どちらの利益にもなる、素晴らしいアイデアと思えた。

他にもさまざまな仕掛けを肉山さんは考えているのだが、強いて挙げれば「専門性へのアプローチ」を拡大していきたいと語っていた。

女性だけでなく、高齢化社会へのアプローチなど、利根書店は時代にコミットしていることも、成長の秘訣であるのだ。

その成長を陰で支えている肉山さんは言う。

「性をオープンにして、壁を壊していきたいですね」

利根書店の勢いはまだまだ衰えそうにない。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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