監督/ジャン=ジャック・アノー
出演/サミュエル・ラバルト、ジャン=ポール・ボーデス、ミカエル・チリニアンほか
配給/STAR CHANNEL MOVIES
『ノートル(我々の)ダム(聖母)』というフランスの、いやヨーロッパのシンボル的建造物が2019年4月に大火災に見舞われた事実。遠く日本にいる我々を含め、世界中の人々がテレビの前で固唾を飲んで見た映像が、まさにドキュメンタリーのように火災発生時から再現されます。
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大火事の映画というと、真っ先に『タワーリング・インフェルノ』を思うわけですが、それから約50年経つ間に火災の映画はとんでもなく進化しているのだなと思うほどのリアリティーを感じました。綿密に取材を重ねたそうですが、消防隊員同士の人間ドラマなど、情緒的な部分をそぎ落とし、今にも焼け落ちんとする大聖堂と聖遺物がいかにして救出されるのかに焦点が定まっています。
火災の原因は未だ明らかになっていません。が、さまざまな不注意や不運が折り重なって大火事に至るまでの過程。いち早く駆けつけた消防隊員が、人ひとり通るのがやっとの古い建造物の階段通路を上り、手持ちホースからの放水だけで消火しようとする様。応援部隊の到着を妨げる渋滞や野次馬など周囲の混乱。さらには、大統領が来ることで現場がさらにややこしくなってしまう様子。すべてが事実に基づいているのですが、まるで上質なサスペンス映画のように見ている我々をジリジリ、やきもきさせ、凡百のパニックものや火災ものを超えています。
まるで炎の中にいる臨場感
ちょうど思い起こしたのが、ゴジラです。昭和29年の『ゴジラ』が60年以上経って『シン・ゴジラ』として蘇った際、単なる特撮怪獣映画が自衛隊や政治家などの詳細な動きを追うドキュメンタリータッチの映画に進化して、とんでもなく完成度が増しているわけですよね。これと似たような構造を感じました。
驚くのは、極力CGを使わず、巨大なセットを組んで大聖堂の象徴的な部分を複製し、火をつけて撮影していること。それにSNSで呼びかけて集めた実際の動画や写真を巧みに組み合わせることで、まるで炎の中にいる消防隊員になったような臨場感を感じ取ることができました。
以前、自分は一日消防隊員の体験をしたことがあるのですが、その際に印象的だったのは、隊員は必ず折り畳みの机を火災現場近くに持って行って建物の見取り図を書き、どこからどの角度で放水するかなどの方針を立てていることでした。
この映画でも、消防隊員が大聖堂の外観を即座に描いているところが映されていたのですが、まるで画家のデッサンのような正確さ。さすが、芸術の都・パリの消防隊員は違うなと、漫画家目線でチェックしてしまいました。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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